第10回「マスカット・オブ・アレキサンドリア」(岡山県・倉敷市)

第10回「マスカット・オブ・アレキサンドリア」(岡山県・倉敷市)

マスカット・オブ・アレキサンドリア

透明感のある黄緑色に大粒で、爽やかな酸味とさっぱりした甘みが特徴のマスカット・オブ・アレキサンドリア。

中桐久雄さん

「倉敷市長賞」を始め数々のコンテストの賞を受賞されるほどに高い技術を保持されている生産者の中桐久雄さん。

豊かな芳醇と気品溢れるブドウ
果物の女王「アレキ」

岡山県は、古くから本格的なブドウ栽培が行われてきた日本有数のブドウ産地ですが、岡山を代表するブドウといえば『マスカット・オブ・アレキサンドリア』(通称・アレキ)。北アフリカ原産の品種で、アメリカを経由して日本にもたらされました。当初は高温・乾燥した気候を好むため、日本での栽培は困難と考えられていましたが、明治19年にガラス室での栽培に成功し、現在では、岡山県は全国一の生産量で、9割を超えるシェアを誇っています。

今回、岡山県倉敷市の郊外にある船穂地区に、『アレキ』を生産されているJA岡山西船穂町ブドウ部会長の中桐久雄さんを訪ねました。今から30年程前の父の代に『アレキ』の栽培を始めたと言います。38歳の時、父の後を継いで先輩に教えを受けたり、講習会を受講するなどしてブドウ栽培の技術を修得されるとともに経験を積み、今では「倉敷市長賞」の受賞など数々のコンテストで賞を受賞されるほどに高い技術を保持されています。

中桐さんは6棟のハウスを所有し、『アレキ』のほか、『オーロラ・ブラック』や『ピオーネ』をご夫婦と後継者の息子さんと3人で栽培されています。『アレキ』は、「加温栽培」で生産されていますが、12月下旬からハウス内を加温機で温めて栽培を始め、5月下旬から8月ごろにかけて出荷されます。生産の際に最も留意するのは、温度・湿度などの園地管理と言います。さらに、実が成る芽を選び、どの枝を残すかという判断力も要求されるとのことです。

アレキ』は、透明感のある黄緑色に大粒で、爽やかな酸味と甘すぎない、さっぱりした甘みとムスクの香りが特徴です。美味しく食べるには常温で保存し、食べる前に房ごと軽く水洗いして30分間ほど冷蔵庫で冷やします。皮ごと粒のまま口に入れると、皮と果肉の間のうま味を感じ、噛んだ瞬間に芳香が広がるといいます。また、船穂地区の小学校では、毎年JAと生産者さんのサポートにより『アレキ』が給食で提供され、幼い頃からこの高級なブドウに触れる機会を作っています。
(取材:2014年5月15日)

ハウス栽培

「加温栽培」で生産されますが、12月下旬からハウス内を加温機で温めて栽培を始め、5月下旬から出荷されます。

マスカットの白和え

水切りした豆腐をクリーム状にして薄口しょうゆと米酢を加えたマスカット・オブ・アレキサンドリアの白和え。

ババロア

白ワインと牛乳を加熱してゼラチンを加え、刻んだマスカット・オブ・アレキサンドリアを入れたババロア。



第9回「ファーストトマト」(愛知県・豊明市)

第9回「ファーストトマト」(愛知県・豊明市)

ファーストトマト

おしりがピンと尖った姿が特徴の『ファーストトマト』。酸味と甘みのバランスが良く、もっちりとした昔懐かしいトマトです。

長男の横山専務

アメリカに農業留学されていた経験もある長男の横山専務は、日本ばかりでなく、広大なアメリカでの農業という夢も持たれています。

もっちり食感の昔懐かしい
ハート型のトマト

愛知県は、古くから本格的なトマト栽培が行われてきた日本有数のトマト産地です。明治時代から海外品種が導入されて各地の試験場などで品種改良が試みられ、昭和初期に豊橋温室園芸農協で開発されたのが『ファーストトマト』です。『ファーストトマト』は、酸味とトマト臭さが少ないことから生食用として広く普及しましたが、昭和60年に発売された「桃太郎」に市場が占有されたこともあり、生産は減少しています。

今回、『ファーストトマト』の品種改良したものを生産されている豊明市の横山農園に横山専務を訪ねました。祖父の代に農業を始め、1970年に父親が施設トマトの栽培を始めたといいます。当初は県内の第一人者に教えを受けたり、失敗を繰り返しながら苦労されてトマト栽培を続けてこられました。自信の持てるトマトが生産できるようになり、1989年には市場出荷から直売へと切り替え、1990年からはジュースやジャムなどの加工品事業もスタートされました。

現在、同農園では12棟の温室を所有し、『ファーストトマト』のほか、『ミニトマト』や『トマトボーノ』、『マスクメロン』を生産しているほか、農園近くの直売所や長久手市で弟さんがシェフを務めるイタリアンレストランと直売所も展開されています。生産から加工、販売までを一貫して手掛けることで6次産業化法の総合化事業計画の認定も受けています。また、1999年には「経営状態の良好さ」から「第29回農業大賞」と「第39回農林水産大臣賞」も受賞されています。

おしりがピンと尖った姿が特徴の品種改良された『ファーストトマト』を生産されている生産者さんは、豊明市内では僅か1軒です。酸味と甘みのバランスが良く、もっちりした食感の昔懐かしいトマトで、包丁で切ると断面は、ハート型になります。直売所だけの販売で1万2000人にも及ぶ顧客がいるといいますが、その人気の要因である品質を支えるのは、栽培の際に水分コントロールを自由に行える隔離ベッドや良質のバーク堆肥などにあるようです。

長久手市にある直営のイタリアンレストランでもさまざまなトマト料理が提供されていますが、横山さんは、「生で食べるのが一番」といいます。常温で置くと追熟し酸味が和らぎ、甘さが増してより一層美味しく食べることができるようです。
(取材:2014年4月15日)

ジャム

横山農園で作られた完熟「ファーストトマト」のジャム。トマトの魅力たっぷりの甘酸っぱい味わいは子どもにも大人にも人気です。

オリーブ漬け

パスタやサンドウィッチなどにも合うドライトマトですが、ファーストトマトを半日天日干した後、白ワインビネガーなどで3日寝かせたオリーブ漬け。

タコライス

ご飯の上に炒めたタマネギや牛挽肉などを乗せ、さらに角切りにしたファーストトマト、チーズ、レタスを盛ったタコライス。



第8回「紀州うすい」(和歌山県・みなべ町)

第8回「紀州うすい」(和歌山県・みなべ町)

うすいえんどう

さやをむいて中の大きな実を食べるえんどうの代表的な品種が『うすいえんどう』。

玉井清さん

紀州水道に面した高台の土地で、奥様とふたりで『うすいえんどう』の生産に従事する玉井清さん。

記念日(5月4日)も制定された
ホクホクとした甘みのえんどう

明治時代にアメリカから渡来し、大阪府羽曳野市碓井地区で栽培されたのが始まりといわれる伝統野菜『うすいえんどう』。大阪から隣接する和歌山へと移り、温暖な県南地区で栽培されてきました。現在は、日本一の産地というみなべ町と印南市を中心に生産され、市場には「紀州うすい」として地域団体商標を取得し出荷されています。また、5月4日に「うすいえんどうの日」という記念日も制定され、PRにも余念がありません。

現在、みなべ町で『うすいえんどう』を栽培している農家は、およそ600戸もあるといいます。今回訪ねたのは、紀州水道に面した高台のホテルの裏に広がる土地で生産をする玉井清さん。2代目の生産者ですが、以前は会社勤めをしていたために『うすいえんどう』の栽培に専業として取り組まれて僅か3年ほど。それまでは、奥様とお母様が担い手となっていました。町は梅の名産地でもありますが、玉井さんも6月からは「梅」の栽培に従事されています。

みなべ町では、11月から5月にかけて露地栽培、ハウス栽培、露地栽培の順で生産されますが、『うすいえんどう』は連作を嫌うため3~5年の間は同じ場所に栽培しないようにしているといいます。玉井さんは露地栽培のみですが、秋口に種を撒き、間引き、支柱を立て、整枝をした上でふっくらと大きく育った実の収穫へとなります。海に面していることから強風や防寒、また海鳥やアライグマなどから実を守るための防御ネットなどの対策も欠かせない仕事です。

『うすいえんどう』は、さわやかな緑色のさやに大きな粒のえんどう豆です。皮が薄く甘みがあり、グリーンピースとはひと味違うホクホクとした食感が特徴です。京阪神への出荷が殆どで、残りは地元での消費となります。地元では、「豆ごはん」や「卵とじ」などで食べられますが、豆をすりつぶしてポタージュスープとしても美味しく食べられるようです。また、若草色が映えるために料理の彩りとして添えられます。
(取材:2014年3月19日)

収穫

さやの中の粒がもう少し大きくなって、爽やかな緑色になるころに収穫を迎えます。

豆ご飯

昆布だしと塩と酒で炊き上げたご飯に塩ゆでした『うすいえんどう』を混ぜた地元での定番「豆ご飯」。

みなべいなみの豆

和歌山県は日本一の『うすいえんどう』の産地ですが、みなべ町と印南市を中心に生産されています。



第7回「広島わけぎ」(広島県・尾道市)

第7回「広島わけぎ」(広島県・尾道市)

広島わけぎ

球根から育つねぎと分球たまねぎとの雑種で、緑黄色野菜のひとつ。日本を代表する青ねぎとして知られます。

因島の重井地区で生産に従事する村上豊さんは五代目。『わけぎ』の魅力を体験授業で子どもたちに伝えています。

日本一の生産量を誇る独特の
香りと甘みが特徴の緑黄色野菜

中国からの渡来が1500年前ともいわれる伝統野菜の『わけぎ』。ユリ科の多年草で、産地の形態を整えたのは明治37年ごろに遡り、当初は三原市の特産物として栽培されていました。尾道市では40年ごろから始まりましたが、現在では県内有数の産地となり、吉和、岩子島、因島を中心に生産され、市場には『広島わけぎ』として出荷されています。

現在、因島で『広島わけぎ』を栽培している農家は23戸。今回訪ねたのは、島の北部にある主要生産地の重井地区の村上豊さん。5代目の生産者ですが、『わけぎ』の栽培に取り組まれて14年ほど。「わけぎ」は、1年を通じて栽培ができますが、特に11月~4月の出荷量が多く、6月~8月の夏場にかけては少なくなるので、閑散期には「児玉すいか」の生産にも従事されています。

ねぎは種子から育てますが、『わけぎ』は球根から育てられ、1~2ヵ月で収穫できるまでに成長します。そのため、畑では年に10回前後植えられます。『わけぎ』という名前は、この株分けにより短期間で増えることから付けられたといいます。独特の香りと甘みが特徴の緑黄色野菜で、現在、季節に応じ9品種が栽培されています。サイズは」M、L、2Lと3種類あります。

京阪神への出荷が多く6割、中京圏が3割、残りは地元での消費となり、首都圏への流通は殆どないといいます。一般的には、「ぬた」で食べられますが、湯がいてシーチキンとのサラダや牛肉のタタキを食べる際に、風味を生かして薬味としても使われます。また、ご当地グルメのお好み焼きやチジミにも合うといいます。加熱すると特に甘みが増すようです。

地元では、「食農体験事業」として、小学5年生の児童を対象に、村上さんの畑を使い、栽培から収穫、わけぎを使った調理実習まで行われています。当初は、土壌や水や肥料など慣れない『わけぎ』の栽培に苦労したといいますが、今では自ら育てた『わけぎ』に自信とプライドを持っています。そんな地域を代表する農産物の魅力を子どもたちに伝える活動に喜びを感じています。
(取材:2014年2月17日)

畑

1~2ヵ月で収穫できるため、年に10回前後植えられています。尾道市が生産量、出荷量とも全国一です。

炊き込みご飯

鶏もも肉やにんじん、ごぼう、しいたけなどの野菜との「鶏の炊き込みご飯」では、わけぎの香りや味がアクセントになります。

出荷

大多数が関西圏や中京圏の市場を中心に出荷されていますが、その際には『広島わけぎ』として出荷されています。



第6回「大和まな」(奈良県・宇陀市)

第6回「大和まな」(奈良県・宇陀市)

大和まな

濃緑色で、葉の切れ込みが小松菜より大きく入った野性的な外観が特徴の『大和まな』のルーツは、中国から渡来した漬け菜。

吉岡さん

『大和まな』の知名度と産地としての存在感を高めたいと話す「大和高原大和まな部会」の部会長を務める吉岡秀義さん。

最も古い野菜のひとつ
柔らかく、甘みに富んだ漬け菜

奈良・大和路の食の歴史、地域の伝統をしっかりと受け継ぎ、戦前から栽培されてきた県認定の「大和の伝統野菜」は現在18品目ありますが、漬け菜の一種である『大和まな』は、かつては油とり用としても栽培されていたといわれます。ルーツは中国から渡来した漬け菜で、『古事記』に「菘」と記載されているように、わが国の中で最も古い野菜のひとつです。その存在は、「大和の伝統野菜」として認定されている18品目の中でも際立っています。晩秋から冬にかけてが旬の野菜で、冬場の貴重な青菜として食卓に彩りを添えています。

宇陀市や大和高田市を中心に生産されていますが、今回訪ねたのは、『大和まな』を生産する34名の農家(現在は39名)の方により設立されたJAならけんの農産物生産・流通部会の「大和高原大和まな部会」の部会長を務める吉岡秀義さん。今後、生産者を増やすとともに、生産者を組織化することで出荷量を増やし、『大和まな』の知名度と産地としての存在感を高めていきたいといいます。10年前に他の仕事を辞めて農業に従事する吉岡さんご自身は、奥さまとふたりで、ほうれん草やこんにゃくなども生産されています。

収穫が冬季の一時期に限られ、他の野菜のように周年栽培が難しいために、大規模な流通に乗ることなく農家の自給野菜として利用されてきましたが、近年、種が選抜されて通年栽培が可能になりました。また、「大和まな」は、収穫後、葉が黄変しやすく、店頭での日持ちの悪さが生産拡大の課題となっていましたが、平成21年に産学官の連携により黄化しにくい新品種「夏なら菜」と「冬なら菜」の2種が開発されました。こうした種子の供給体制や予冷庫の設置が整ったことから部会の設立に至ったといわれます。

『大和まな』は濃緑色で、小松菜に大根葉のような切れ込みが入った野性的な外観が特徴でもあります。晩秋から冬にかけての大和の地方色豊かな惣菜として、漬物を始めおひたしや煮物、油炒めに辛子和えなどに調理されますが、特に油揚げとの相性が良く、煮浸しは地元の家庭料理として定番のようです。噛んだ瞬間に旨みが口の中に広がりますが、12月以降、寒さが厳しくなる中、霜に当たると、他の漬け菜にはない柔らかさと独特の風味や甘みが一層増すといわれます。
(取材:2014年1月15日)

収穫

霜に当たった12月以降が最も味が良くなると言われ、他の漬け菜よりも柔らかく、独特の風味や甘みが一層増します。

おひたし

晩秋から冬にかけての大和の地方色豊かな惣菜として、特に油揚げとの相性が良く、おひたしは地元の家庭料理として定番。

栽培

害虫が付きやすいので、ハウスの内側にもネットでカバーするなど防除管理も徹底を図っています。