第15回「岩津ねぎ」(兵庫県・朝来市)

第15回「岩津ねぎ」(兵庫県・朝来市)

とろりとした食感と甘みの太くて柔らかい日本三大ねぎ

岩津ねぎ

白い部分の長さが25cm以上の『岩津ねぎ』は、葉先から根元まで余すことなく食べられるといいます。

『岩津ねぎ』の歴史は、兵庫但馬の生野銀山が栄えた江戸時代に鉱山労働者のための冬場の栄養源として、朝来市の岩津地区で栽培されたのが始まりといわれています。その後、冬の厳しい気候風土に培われ、気品高く独特の風味と甘く柔らかい絶妙のねぎに改良されました。2005年(平成17年)に朝来市岩津ねぎ生産組合が設立され、2011年(平成23年)には栽培面積を拡大し、「国野菜指定産地」の認定を受けました。現在、「岩津ねぎ」を生産される組合員はおよそ250名で、昨年度は約250tで1億1千万円の出荷額がありました。

博多の『万能ねぎ』や群馬の『下仁田ねぎ』と並ぶ「日本三大ねぎ」のひとつである『岩津ねぎ』は例年、生育状況などから解禁日を決めていましたが、竹田城跡の人気などから『岩津ねぎ』の知名度や関心も高まったことで、生産や販売計画を立てやすく、消費者にも効果的にPRする狙いなどにより今年から販売解禁日が祝日の11月23日に固定されました。当日は、市内の道の駅で「出陣式」や即売会、など解禁記念イベントも行われたといいます。来年3月21日まで市内の直売場を始め京阪神のスーパーなどに出荷されます。

米田隆至さん

厳しい出荷規格を遵守しブランド化を推し進める岩津ねぎ生産組合の組合長を務める米田隆至さん。

今回、訪ねた岩津ねぎ生産組合の組合長を務める米田隆至さんは、奥様とお手伝いの女性ふたりと『岩津ねぎ』を生産されています。ご実家は代々農業に携われていたものの、ご自身は公務員を退職されてから専従となったために3年目といいます。『岩津ねぎ』には、白い部分の長さが25cm以上、葉が2枚以上などの厳しい出荷規格があり、組合では組合員に遵守するよう指導が行われています。また、この地方独特の気候風土と何度も土寄せを繰り返す栽培法により甘くて太く、柔らかいねぎが育つといいます。

甘くて太く、柔らかく、青菜の部分から白い茎の部分まで食べることができるのが特徴ですが、雪や霜に当たるなど冬の冷え込みが厳しくなると甘さと柔らかさが一段と増し、さらに美味しくなります。肉厚の葉の裏側には卵白のような透明のものがねっとりとしていますが、 このゼリー状のものが出ていたら美味しい目印と言われています。麺類などの薬味を始め、吸い物や鍋物の具に焼きねぎ、ぬた、揚げ物、天ぷらなど多くの料理に使うことができますし、また加工品も多く誕生しています。
(取材:2014年12月17日)

ねぎ畑

竹田城跡を背に広がる『岩津ねぎ』の畑。冷え込みが厳しくなると一段と甘みと柔らかさが増すといいます。

肉うどん

味がしっかりしているので、「肉うどん」では薬味という脇役よりは、太く大きく刻んだねぎで十分に主役が務まります。

販売所

市内の道の駅では、2kgの箱入りや商標ラベルが貼られて袋に入れられた『岩津ねぎ』が販売されています。



第14回「山内にんじん」(秋田県・横手市)

第14回「山内にんじん」(秋田県・横手市)

山内にんじん

鮮やかな赤色の肩部が角ばっていて長い『山内にんじん』は、肉質が緻密で煮崩れしにくいため煮物や鍋物に最適といわれます。

高橋登さん

『山内にんじん』や『青首大根』、また「いぶりがっこ」をご家族で生産されているほか、三又営農生産組合の事務局長も務める高橋登さん。

パリッとした食感と強い甘みが
特徴の太くて長いにんじん

現在、秋田県の伝統野菜として認定されているものは30品目あります。認定の条件としては、昭和30年代以前から県内で栽培されていたもの、地名や人名が付いているなど県に由来しているもの、種子や苗が残されており、生産物が手に入るものとされています。その中で唯一の「にんじん」である『山内にんじん』は、山間地の豪雪地帯としても知られている横手市の山内地域の三又で、およそ60戸ほどの生産者さんによって生産されている「にんじん」で、10月下旬から11月下旬にかけて出荷されています。

そもそも昭和20年代前半に『札幌太』から選抜された優良品種が、『山内にんじん』と命名されたのが始まりで、とう立ちが少なく、寒さに強いため栽培が容易なことから盛んに作られました。しかし、昭和50年以降は小ぶりで栽培し易い「短根系にんじん」の台頭により衰退し、僅かに自家用栽培を残すだけとなってしまいましたが、平成17年に県の伝統野菜に認定され、地域の伝統資源を守ろうと『山内にんじん』復活のための活動がスタートし、平成19年から三又営農生産組合を中心に地域での本格栽培が始まりました。

今回、訪ねた三又営農生産組合の事務局長を務める高橋登さんは、お母様や奥様などご家族を中心に「青首大根」と『山内にんじん』を無農薬で育てられているほか、昔から冬場の保存食として当地の名産でもある漬物「いぶりがっこ(いぶり大根とにんじん)」も作られています。名人と呼ばれるお母様と「第1回山内いぶりんピック」で金賞を受賞された奥様が、例年この時期から12月中旬にかけて漬け込まれているもので、ネット通販でも販売されています。

昼夜の寒暖の差が大きい山間地の畑で育てられているので寒さに強く、鮮やかな赤色で、肩部が角ばっていて30cmと長くて太い『山内にんじん』は、肉質が緻密で煮崩れしにくいため煮物や鍋物に最適といわれます。また、パリッとした食感に香りや強い甘みが特徴で、漬物やサラダなど生の風味の料理に向いているといいます。ちなみに、地元では好んで味噌漬の一夜漬けが食べられます。栽培する農家が増える中、量販店や小売店、道の駅などにも販路を広げて生産が拡大しているといいます。
(取材:2014年11月10日)

山内にんじんの畑

昼夜の寒暖の差が大きい山間地の畑で、手間をかけて無農薬で栽培されているからこそ濃厚な『山内にんじん』が収穫されます。

白和え

生のままでもおいしいくいただけるよう千切りにした『山内にんじん』は、色が濃くて甘みも強いため、麹の「白和え」にも合います。

いぶりがっこ

「いぶりがっこ」は1本1本縄で編み込まれたにんじんを束ね、いぶり小屋で4~5日じっくりと燻された後、秘伝の製法で漬け込まれます。



第13回「源助だいこん」(石川県・金沢市)

第13回「源助だいこん」(石川県・金沢市)

肉質が軟らかく肌がきれいな栄養価の高い源助だいこん

源助だいこん

ずんぐりとした円筒形の『源助だいこん』は、肉質が軟らかく肌がきれいな大根として高い評価を受けています。

石川県内では、主にスイカを栽培した跡地に作付けされ、10月頃に収穫が始まる「青首大根」と呼ばれる大根が通常よく出回っている種類ですが、石川県オリジナルの大根で冬の食材として親しまれているのが、「加賀野菜」にも認定されている『源助だいこん』です。昭和7年から10年をかけて17年に完成されたといわれますが、10月下旬から収穫が始まり、11月上旬にピークを迎えた後、年を越えて2月上旬まで出荷は続きます。

今回、訪れた石川県金沢市の打木町は、『打木赤皮甘栗かぼちゃ』と並んで『源助だいこん』の産地として知られています。一時、収量性に優れ作りやすい「青首総太大根」の出現により作付面積が減少し、僅か1軒にまでなってしまった『源助だいこん』ですが、現在では市内で18軒の農家が生産に取り組んでいます。厳しい時代に最後の1軒として『源助だいこん』を守り続けたのが、「打木源助だいこん部」の部長を務める松本充明さんの実家でした。

松本充明さん

『源助だいこん』を開発した松本佐一郎さんを祖父に持ち、現在は、「打木源助だいこん部」の部長を務める松本充明さん。

『源助だいこん』は、在来の「青首大根」と愛知県から持ち込まれた「白首大根」が自然交雑したものから打木町の農家の松本佐一郎さんによって育成されたものといわれます。その際にアドバイザーを務めたのが、当時盛んに栽培されていた「宮重大根」の生産者の井上源助さんでした。『源助だいこん』は、この源助さんの名前に由来しています。また、松本佐一郎さんは、松本充明さんの祖父にあたる方で、ノウハウは孫の充明さんへと受け継がれています。

ずんぐりとした円筒形で、尻のつまりがよい『源助だいこん』は、肉質が軟らかく煮崩れしにくいため、「ふろふき大根」や「ブリ大根」などの煮物に最適であるほか、金沢名物の「おでん」にも欠かせない食材です。また、繊維質が少なく甘みがあるため、「大根おろし」や「一夜漬け」、「浅漬」にも合うといいます。美味しく食べられるよう鮮度を重視するため収穫は早朝から行われ、畑から抜いた大根を冷水で洗い、箱詰めまでの作業は全て人の手で行われます。
(取材:2014年10月16日)

大根畑

2万本近くの『源助だいこん』が植えられた大根畑。大根の成長や出来を見極める基準は、葉っぱの色といいます。

肉団子みぞれスープ

繊維質が少なく、甘みがあるため、「肉団子みぞれスープ」には、『源助だいこん』の「おろし」がとても合います。

源助だいこん

『源助だいこん』は、実がパンパンに張った一番良い状態で出荷するといいますが、抜く時も作業は丁寧に行われます。



第12回「博多アスパラガス」(福岡県・大川市)

第12回「博多アスパラガス」(福岡県・大川市)

博多アスパラガス

疲労回復効果の高いアスパラギン酸を含んだ根元まで柔らかい『博多アスパラガス』。

江崎都さん

お父様の作業支援を受けながら『博多アスパラガス』を生産されている若手女性生産者の江崎都さん。

若手女性生産者が作り出す
根元まで柔らかいアスパラガス

新鮮でおいしく、安心できる農産物が豊富なことで有名な福岡県ですが、平成10年よりアスパラガスの生産を推進・拡大してきています。平成20年度には、福岡県ブランド化推進協議会により品質・安全性はもちろん、量や環境への配慮も優れているとして、『博多アスパラガス』が福岡県の農産物ブランド化推進対象品目に承認されました。福岡県産の『博多アスパラガス』は、冬でも温暖な九州の気候とビニールハウス栽培による保温、雨よけ対策の効果で、1月から10月までの収穫が可能になりました。

今回、訪れた福岡県の南西部に位置するJA福岡大城は、きのこの産地としても知られていますが、県内一の生産量を誇るアスパラガスの産地でもあります。JA福岡大城管内では、およそ3割が女性の生産者といわれますが、今回訪ねた江崎都さんは、教員への道を目指し広島大学に進学されたものの、自然を相手にする農業の魅力に惹かれ、29歳の時にUターン。実家は代々続く普通作大規模経営農家ですが、地元のJA・先輩女性生産者の誘いもあり、地域の振興品目である『アスパラガス』の生産に取り組んだといいます。

現在、普通作はお父様、都さんが『博多アスパラガス』を中心とした経営と分担し、14棟のハウスで栽培されています。『博多アスパラガス』には、3~4月がピークの春芽と6~7月にピークを迎える夏芽があります。夏芽は春に立茎した親茎の下で育つため淡い緑色ですが、根元まで柔らかく、甘みが強いのが特徴です。この時期、背の高さほどのふさふさとした葉の下には、地面からアスパラガスが元気に生え育っています。穂先がピンと立ち締まっているものがおいしいと言われます。

『アスパラガス』は、糖質が多く、疲労回復効果の高いアスパラギン酸や食物繊維が豊富な素材で栄養面でもうれしいポイントが多くあります。脂っこいものやお酒などを多く摂取される方、妊娠中の方にもお勧めです。また、おいしい食べ方としては、茹でたり、焼いたりするほか、炒めものや天ぷら。茹でる場合には、初めに根元を立てた状態で茹で、その後横に寝かせて全体が均一になるよう仕上げるのがコツといいます。
(取材:2014年7月14日)

ハウス栽培

温暖な気候とハウス栽培による保温や雨よけ対策の効果で、1月から10月までの収穫が可能になりました。

パンツァネッラ

硬いパンにトマト、たまねぎ、アスパラガスなどを加えてヴィネガーやオリーブオイルで味つけした『パンツァネッラ』。

博多アスパラガス

ふさふさと生えているのが葉と茎。この根元から『博多アスパラガス』が元気に育ちます。



第11回「ナーベーラー」(沖縄県・南風原町)

第11回「ナーベーラー」(沖縄県・南風原町)

ナーベーラー

『ナーベーラー』は沖縄の方言で、食用のへちまのことですが、ビタミンやミネラルを豊富に含んでいる夏野菜です。

神里繁さん

「キレイで良いものを出荷する」と言われている神里繁さんは、ご夫婦で『ナーベーラー』と『かぼちゃ』を生産されています。

夏野菜の横綱格のへちま
トロリとした食感と甘みが特徴

沖縄県は亜熱帯に属しているため、農作物にも大きな特徴があり、高温下で栽培するウリ科野菜を多食する文化があります。『ゴーヤー』を始め『トウガン』、『ナーベーラー』といった野菜には、水分とカリウムが含まれていますが、『ナーベーラー』は葉酸も豊富です。葉酸は妊娠初期の胎児の神経系発達時期にも適しています。『ナーベーラー』は沖縄の方言で、食用のへちまのことですが、インドや中国が原産の作物で、江戸時代に中国から渡来したといわれています。

今回、訪れた那覇市の南に位置する南風原町は、県内一の『ナーベーラー』の産地ですが、生産者さんの中でもキレイで良いものを出荷するといわれている神里繁さんを訪ねました。代々農業に従事されてきましたが、神里さんは15年ほど前から就農したといいます。 300坪ほどの農地には、大きな葉とつるに覆われた中に、黄色い花がまぶしいほど咲いた『ナーベーラー』畑が一面に広がっています。

神里さんは、『ナーベーラー』のほか、『かぼちゃ』をご夫婦2人で栽培されています。『ナーベーラー』は、成分のほとんどが水分ということで、栽培の過程では水管理がとても重要です。また、南風原町はジャーガルという粘土質の灰色がかった色をした土壌で、保水性に優れており、『ナーベーラー』の生育に良い影響を与えているといいます。滑らかな食感とまろやかな甘みが特徴の野菜ですが、南風原町産は表面のでこぼこが少なくツルっとしています。

『ナーベーラー』は、『ゴーヤー』と並ぶ夏野菜の横綱格ですが、ビタミンやミネラルを豊富に含んでおり、開花から1週間ほどで20cmくらいの若い実を食用にします。沖縄では『ナーベーラーンブシー』という味噌煮で食べることが多いようですが、中華・洋風料理にもマッチングするので、今後料理の幅が広がる野菜として期待されています。

平成24年、南風原町では町内産のへちまの総称を『はえばる美瓜(びゅうり~)』とネーミングするほか、料理のレシピ集の発行、へちま大使として活躍する小学生のダンスチーム『Beaury’s』の結成、ゆるキャラ『美瓜くん』の登場などによりブランド化と消費促進を図っています。

(取材:2014年6月4日)

美瓜くん

南風原町産のへちまの総称『はえばる美瓜にちなんだゆるキャラの『美瓜くん』も取材現場に登場。

スタミナビネガーチキン煮

暑い夏にぴったりのナーベーラーと鶏の手羽元を煮込んだ栄養満点のスタミナビネガーチキン煮。

ラタトゥイユ

ナーベーラー、ナス、トマト、パプリカなど夏野菜をたっぷり炒めて煮込んだ覚めてもおいしいラタトゥイユ。