第5回「桜島だいこん」(鹿児島県・鹿児島市)

第5回「桜島だいこん」(鹿児島県・鹿児島市)

味がしみこみ易いという特徴に果肉も緻密で雪のように白いことから、漬物用から煮物用まで用途も幅広いものがあります。

『桜島だいこん』だけではなく、『小みかん』も栽培されているほか、最近では自宅横にカフェも開店された村山利清さんと奥さま。

世界一大きいだいこん
煮崩れしにくく、味がしみ易い

古く江戸時代から栽培され、貝原益軒の『大和本草』でも「薩摩大根は常のより大なり」と記されているほど、大きなだいこんの代名詞として国内で圧倒的な知名度を誇っている鹿児島を代表する伝統野菜が『桜島だいこん』です。その存在は、「かごしまの伝統野菜」として認定されている22品目の中でも際立っています。9月に種を撒き、1月上旬から2月下旬にかけて収穫されますが、1本当たりの重量は平均で10kgから15kg、世界一大きい「だいこん」は、31.1kgでギネスブックにも認定されているといいます。

現在、桜島で『鹿児島だいこん』を栽培している農家はおよそ40戸ほど。今回訪ねたのは、白浜温泉近くで生産をする村山利清さん。元々は鹿児島市内で青果店を経営されていましたが、4年程前に夫妻で桜島に移り住み、『桜島だいこん』と10.000本ほどの『小みかん』も栽培されています。最近では、放棄地を新たに開墾して『桜島だいこん』の栽培も行っているほか、自宅横に「カフェしらはま」をオープンし、奥様の手料理のランチや『小みかん』のシフォンケーキなどスイーツも提供されています。

父の代から桜島で農業をされていたので、結婚当初には農業青年として農業に従事していたことがあるといいます。その頃に農薬の影響で体に支障をきたしたこともあり、農薬や化学肥料に頼ることのない農業方法に人一倍こだわりを持っています。 近年、桜島の活発な噴火活動の影響で降灰が激しく、葉に覆いかぶさるため灰に弱い『桜島だいこん』は手間がかかりますが、子どもたちに体に良いものを食べさせたいという思いもあり、日ごろから小学生や幼稚園児たちへその魅力や育て方などを伝えています。

桜島独特の火山灰の土壌で、6ヵ月ほどかけて育てられる『桜島だいこん』は、肉質は柔らかいものの煮ても煮崩れにしくく、甘みがあります。また、味がしみこみ易いという特徴と、果肉も緻密で雪のように白いことから、漬物用から煮物用までその用途も広いといいますが、6割が漬け物など加工用で、3割が青果店、一部が飲食店などに流通しています。また、変わったところでは、首都圏などから「飾り物」としての需要もあるとか。地元では、「さつま汁」や「だいこんサラダ」としても食されるようです。
(取材:2013年12月6日)

収穫

9月に種を撒き、桜島独特の火山灰の土壌で6ヵ月ほどかけて育てられ、収穫は1月中旬ごろから始まり、2月まで続きます。

カフェでも提供される奥様手づくりの「桜島だいこんサラダ」は、色合いのバランスも良く。シャキシャキとした食感がポイントです。

栽培

最近では、放棄地を新たに開墾して『桜島だいこん』が栽培されています。錦江湾の向こう側には鹿児島市内が望めます。



第4回「加賀れんこん」(石川県・金沢市)

第4回「加賀れんこん」(石川県・金沢市)

支那白花

現在、栽培されている「支那白花」という品種は、病気に強く、浅根性で収穫もしやすい上に収量も多いといいます。

米澤哲司さん

金沢れんこん生産組合の若きリーダーとして栽培の理論的な研究や人材育成に余念がない米澤哲司さん。

肉厚で、もちもちとした食感
病気に強く、浅根性のれんこん

昭和20年以前から栽培され、今も主として金沢で栽培されている野菜が『加賀野菜』と呼ばれ、現在15品目がブランド野菜として認定されています。金沢は加賀百万石の城下町ですが、『加賀れんこん』は、五代藩主の前田綱紀公の頃に栽培が始まったと伝えられていますから300年以上の歴史を誇っています。当初は、上級武士の薬用として用いられ、食用としての栽培が盛んになったのは、明治20年代からといわれます。

現在、金沢市内で『加賀れんこん』を栽培している農家はおよそ60軒ほど。古くから生産されている小坂地区と河北潟干拓地の2ヵ所ありますが、今回訪ねたのは、河北潟干拓地で生産をする金沢れんこん生産組合副組合長の米澤哲司さん。元々は米農家でしたが、30年程前に父の代からこの地でれんこんの栽培を始めたといいます。ご自身は、柔道整復師を経て家業を継がれました。

収穫方法には「鍬堀り」と「水堀り」の2種類がありますが、干拓地のれんこん畑では、ホースの水圧によりれんこんの周りの泥を飛ばしながら収穫作業が行われる水堀りです。晩秋のこの季節、早朝3時頃からお昼ごろまで、雨の日も作業があります。ウエットスーツ姿で腰まで水に浸かり、手がかじかみ泥水で見えない中、長年の経験と勘を頼りにれんこんを探しだして掘りおこす作業は大変過酷なものです。

現在、栽培されているのは、「支那白花」と呼ばれる品種の病気に強く浅根性のものです。太くて節と節の間が短く、肉厚な上にでんぷん質が多くて粘りが強いという特徴を持っています。世帯あたりのれんこん支出額が全国一といわれる石川県民ですが、地元ではすりおろして加熱するなどもちもちした食感を味わう料理として食べられるようです。また、お好み焼きのつなぎとしても合うといいます。
(取材:2013年11月7日)

水堀り

ウエットスーツ姿で腰まで水に浸かり、ホースの水圧を利用してれんこんの周りの泥を飛ばしながら収穫する水堀り。

「奈加川」の蜜菓子

獲れたての『加賀れんこん』をひとつひとつ蜜漬けにした「奈加川」の蜜菓子。リンゴみたいなシャリッとした食感。

れんこん引き揚げ

泥を取り除いたれんこんは小さなボートに積まれた後、作業場で規格を揃え箱詰めを経て市場に出荷されていきます。



第3回「相模半白節成」(神奈川県・平塚市)

第3回「相模半白節成」(神奈川県・平塚市)

相模半白節成

上が緑、下が白い、昭和4年に誕生の伝統野菜「相模半白節成」

30代にして「幻のきゅうり」を復活させた三代目の吉川貴博さん

肉質が締り、パリッとした食感
「河童」と呼ばれた幻のきゅうり

神奈川県・平塚市に、温室きゅうり専門農家として40年以上もの歴史と実績を誇る城島園芸の3代目の吉川貴博さんを訪ねました。現在は、「かながわブランド認定品」にも指定されている幻のきゅうり『相模半白節成(さがみはんじろふしなり)』を始め、ピクルスの瓶詰で知られる『ガーキン』、イボなしきゅうりの『フリーダ』や珍しいうぐいす色の『うぐいす』など6種類のきゅうりを温室栽培しています。

平塚市は、明治30年代から栽培が始まったきゅうりの一大産地で、現在も神奈川県では収穫量が1位といいます。その地で昭和4年に誕生した『相模半白節成』は、昭和30年代後半まで広く栽培され全国に名を馳せました。その後、病気に弱いことなどもあり、現在主流の緑色のきゅうりの台頭により一度は途絶えましたが、伝統野菜の復活に力を注いできた吉川さんの手により再び市場に出荷されるようになりました。

昔、きゅうりは木箱に入れられて出荷されましたが、市場では八百屋さんに見えるように木箱にきゅうりを立てたといわれます。木箱を川に見立て顔は出ていて日焼けしをして色が濃いが、川の中の体は日に当たらず白いという姿から「河童」と呼ばれたそうです。なお、実際は半白の性質は品種由来で、日の当たり方ではないようです。

2010年に温室栽培で取り組み始めたこのきゅうりは、半白きゅうりの代表種で果実の上半分が濃緑色、下半分が白に近い黄緑色、ずんぐりした形で黒イボがあります。肉質が締まり、バリッとした食感の皮までしっかり噛みごたえがあるので漬物に最適ですがサラダや、最近ではレトルトカレーが発売されたり、天ぷらなど加熱調理への利用も広がっているといいます。
(取材:2013年10月9日)

6種類のきゅうり

現在、きゅうりの専門農家である吉川さんの城島園芸で温室栽培されているのは、「相模半白節成」(写真の中央)を始め6種類のきゅうりです。

レトルトカレー

漬物用に使用される肉質のしっかりしたきゅうりが煮崩れせず大きなままたっぷり入っています。農商工連携のプロジェクトにより商品開発されました。

温室栽培

今では一般的な温室栽培も祖父の代に始めた1965年頃は、早く栽培して出荷できる新しい農業スタイルとしても注目されたといいます。



第2回「札幌黄」(北海道・札幌市)

第2回「札幌黄」(北海道・札幌市)

長岡巾着なす

タマネギ農家四代目の大作康浩さんは焼きタマネギもオススメ

小林ご夫妻

「食の世界遺産」にも登録された北海道の代表的野菜「札幌黄」

再び魅力が見直されている
タマネギの在来種

例年であれば、8月下旬から収穫されるタマネギの「札幌黄」。今年は大雨や天候不順により少し遅れたようです。札幌市郊外の丘珠空港に程近く、70アールの畑で「札幌黄」やF1種を栽培されているタマネギ農家4代目の大作康浩さん。「雨が降ると葉が開いているので入りやすく腐ることが多い」ことや日持ちがしなかったり、形が不揃いであったりと栽培の難しさを語られるものの、シンプルに生でスライスして食べる食感やおいしさには自ら太鼓判を押されていて、「札幌黄」に賭ける思いは人一倍の強さです。

「札幌黄」のルーツは、明治4年に欧米から輸入した種子を札幌農学校で試作したことに始まります。肥沃で風が強く乾燥しやすいという環境もあり、品種改良を重ねて「札幌黄」として広まったといわれます。現在、自家用栽培も含め40軒程の農家で作られています。一時は、ロシアやフランスにも輸出されていたものが、昭和50年頃からF1種が増えたことや病虫害に弱いことなどもあって作付面積が減少していたといいます。

最近では、一般のタマネギより肉厚で柔らかく、煮込むと甘味が強くなるなど味の良さから見直されているほか、普及・PRのために消費者や生産者、飲食店などによって設立された「札幌黄ブランド化推進協議会」の尽力により消費に広がりを見せ、平成19年には、「食の世界遺産」ともいわれるスローフード協会本部の「味の箱船」にも認定されています。大作さんのところで拝見した「札幌黄」は、乾燥され、選別が行われた後に倉庫で寝かされたものが市場に出荷されていきます。
(取材:2013年9月12日)

素揚げ

北海道のタマネギは、春に種をまいたものが秋に収穫されます。一面に黄金色に輝く丸々とした「札幌黄」が転がっている収穫時の畑はなかなか壮観です。

炒め物

熱を加えることで甘みが増す」といわれる札幌黄の特徴を活かした「焼きタマネギの味噌汁」。くし切りにして軽く焼いてから入れると生のまま入れて加熱したものより甘みがいっぱい感じられる。

ふかし

タマネギの花「ネギ坊主」は、次の年用の種を取るために育てています。刈り取られた後は、頭を下にして干され、「札幌黄」の種が落ちるのを待ちます。



第1回「長岡巾着なす」(新潟県・長岡市)

第1回「長岡巾着なす」(新潟県・長岡市)

長岡巾着なす

縦にシワが特徴の巾着型で大きく実った「長岡巾着なす」

小林ご夫妻

夫唱婦随で「長岡巾着なす」を生産される小林幸一さん、フサ子さんご夫妻

なすの宝庫、新潟でも際立つ
栄養たっぷりの伝統野菜

この時期、旬を迎える「なす」。新潟県長岡市でおよそ250年続いている農家の4代目の小林幸一さんは、奥さんとふたりで「長岡巾着なす」や「梨なす」、「ゆうごう」などの伝統的な『長岡野菜』を始め、きゅうりなどの路地野菜を長年栽培しています。「在来なす」の宝庫ともいわれる新潟県では、たくさんの品種のなすが栽培されていますが、中でも大型の丸なすで重量感のある「長岡巾着なす」は、最も個性的な「なす」です。

そもそも「長岡巾着なす」の歴史は、明治時代の中ごろに遡ります。現在、市内で栽培されている農家は、小林さんを含め僅か3軒になってしまいました。この「なす」ほど果肉がしっかり詰まった硬い「なす」は、全国でも珍しいと言われていますが、長岡では、伝統的に「蒸かしなす」という他の地域では珍しい甘味の強い果肉の味を最大限に引き出す「蒸かし」て生姜醤油を付けて食べるのが一般的です。

小林さんの畑に伺うとヘタと実の間に黄緑色の線が入った文字通り絞った巾着袋のように縦に皺のある「長岡巾着なす」が枝の陰から姿を現します。1本に成るのは僅かに20個程で、通常のなすの20~30%の収穫量といいます。現在、400本が栽培されていますが、原種に近いため育てるのが難しく、栽培方法も土壌改良しながら試行錯誤を繰り返し作られているそうです。全国の方に長岡にはこんなに美味しい「なす」がある、こんな食べ方、食文化があるということを伝えられればと野菜について話し出すと止まることのない小林さんは、『長岡野菜』のスポークスマンです。
(取材:2013年8月8日)

ふかし

「蒸かし」はまさに新潟ならではのなすの味わい方。蒸し上げてもへたらずに身がシャキッとしているからこそできる調理法です。生姜醤油がまたベストマッチ。

炒め物

同じく長岡特産の南蛮(とうがらし)と合わせた炒め物。ゴツゴツした外観が神楽面に似ていることから「かぐらなんばん」と呼ばれます。ピリッとした風味が夏にぴったり。

素揚げ

しっかりとして肉厚な巾着なすは、素揚げにしても存在感&満足感抜群。普通の長なすよりかなり時間をかけてじっくりと丁寧に揚げます。