第20回「江戸崎かぼちゃ」(茨城県・稲敷市)

第20回「江戸崎かぼちゃ」(茨城県・稲敷市)

上品な甘さとホクホクの食感
取れたて完熟のかぼちゃ

茨城県南部の霞ヶ浦と利根川の間に位置する稲敷大地の関東ローム層で、『江戸崎かぼちゃ』の栽培が始まったのは昭和41年。来年で節目の満50年を迎えます。夏の作物として新種の「えびすかぼちゃ」や「くり将軍」に目を付け、有機肥料をふんだんに使い、畑でしっかり完熟させてから出荷したところ市場で評判になったといいます。優れた農産物としての受賞歴も多数にのぼっており、今や「日本一のかぼちゃ」と言われるまでになりました。

当初はノウハウも乏しく、苦労も多かったようですが、昭和45年にかぼちゃ部会が設立され、品質や栽培技術の向上に努めるとともに、計画出荷の確立や試食宣伝会などに取り組んだ結果、昭和57年には県内初となる「茨城県銘柄産地」の指定を受けています。また、規格の均一化を図るため、一元出荷して専門検査員による全品開口検査を実施し、未熟品などの抜き取り出荷を行うなど地道で堅実な対応や姿勢がブランドを守り続けてきました。

今回訪ねた生産者の若林正一さんは、ご夫婦でハウスと露地での栽培をされていますが、本来の味と香りをギリギリまで引き出すために通常、花が咲いてから45日ほどで収穫できるものをあえて55日以上かけ、完熟するのを待って収穫するので、直ぐに食べることができといいます。舌触りが良く、上品な甘さが特徴なほか、皮にツヤがあってずっしりと重みがあるかぼちゃで、ヘタが青くても完熟で食べごろなのが『江戸崎かぼちゃ』と説明されました。

『江戸崎かぼちゃ』は、甘みとホクホク感が他の産地の追随を許さない「かぼちゃ」のブランド品ですが、かぼちゃには、免疫力を高めるカロチンはもちろん、ビタミンCも豊富に含まれており、緑黄色野菜の王様と言われています。この完熟かぼちゃの素材の味を生かした「煮物」を始め、「天ぷら」といった定番の和風料理もさることながら、「ポタージュスープ」や「サラダ」、またチーズを使った洋風の料理などにも見事にフィットするといいます。
(取材:2015年5月26日)

江戸崎かぼちゃ

完熟してから収穫し、直ぐに出荷するので、いつでも食べごろの舌触りが良く甘いかぼちゃです。

若林正一さん夫妻

天候に関わらず毎日圃場に出かけ、奥様とふたりで丹精にかぼちゃを育てる若林正一さん夫妻。

かぼちゃ畑

堆肥による土づくりが行われた圃場で、収穫の直前まで自然の光をたっぷり浴びて育てられます。

かぼちゃの煮つけ

とても素朴で甘みが立っていない上品な味が新鮮な定番ともいえる「かぼちゃの煮つけ」。

認定シール

美味しいかぼちゃの代名詞になっている「江戸崎かぼちゃ」には、認定シールが貼られています。



第19回「京たけのこ」(京都府・長岡京市)

第19回「京たけのこ」(京都府・長岡京市)

苦みがなく、肉厚で柔らかく
色の白いブランドたけのこ

「たけのこ」は、道元禅師が宋の時代の中国から「孟宗竹」を持ち帰り移植したのが始まりとされるなど諸説ありますが、道元禅師ゆかりの長岡京市内の寂照院には、「日本孟宗竹発祥之地」の石碑が建立されています。当初は観賞用で、食べられるようになったのは江戸時代と言われていますから二百年以上の歴史を持っています。市内では、マンホールの蓋にも「たけのこ」の絵柄が施されるなど市を挙げて“竹の街”をPRしています。

上質な『京たけのこ』の産地である長岡京を含む乙訓地域は、西山連峰のおかげで北西の季節風が弱められ、孟宗竹の根元が揺れず根の痛みが少ないほか、畑が傾斜地のため水はけが良く、粘り気が強く密度の高い粘土質の土が孟宗竹に適しているという環境にあります。さらに、この地では秋にたけのこ畑一面に稲わらを敷き、冬に置土をするなど栽培方法に工夫がされて育てられていることから柔らかいたけのこが生まれるといいます。

府内で生産されるたけのこは全国の1割程ですが、品質は、「京の伝統野菜」にも認定されている極上品です。今回、訪ねた小野洋史さんは、代々たけのこが生産される藪を継いで20年になりますが、現在は4000㎡に1200本の竹を育てています。竹藪は、草取りや余分な竹の伐採、稲わらを敷き詰めて赤土を入れるなど1年を通じて手入れが欠かせないほか、お互いの成長を妨げないように竹と竹の間を少し空けて日当たりを確保しています。

1年を通じ手をかけて育てられる『京たけのこ』ですが、「たけのこご飯」を始め、「わかたけ煮」や「わかたけの酢のもの」などといった定番の料理もさることながら、地元では豊かな風味とともにほのかな甘みが味わえる採れたての生の「刺身」や「すき焼き」の具として食べられることも多いようです。また、野菜と同じような栄養があるたけのこは、穂先の柔らかい部位から根元の硬い部位までさまざまな食べ方や調理にも応えることができます。
(取材:2015年4月24日)

京たけのこ

えぐみや苦みが少なく、肉厚で柔らかく、風味とともにほのかな甘みが口の中に広がるたけのこです。

小野洋史さん

手間と時間をかけ、ひとりで丹精を込めて極上のたけのこを育てている小野農園の小野洋史さん。

竹林

竹林は、稲わらを敷き詰めたり、土を入れるなど手入れが行き届き、足が沈むほどの柔らかさです。

「竹の子姿寿司

地元の和食店で人気のある名物「竹の子姿寿司」は、小野農園のたけのこを使ったオリジナル品です。

掘り鍬

たけのこを掘り出すのに用いる「掘り鍬」は、柄は短く、金具が長く、先端は鋭利になっている特注品です。



第18回「泉州水なす」(大阪府・貝塚市)

第18回「泉州水なす」(大阪府・貝塚市)

皮が軟らかく、甘みがあり
みずみずしい食感の水なす

泉州地域の特産品として知られている『泉州水なす』ですが、室町時代に書かれた『庭訓往来』には、澤茄子に「みつなす」の読みがふられており、和泉国日根郡澤村(現・貝塚市澤)が「水なす」発祥の地と伝えられています。貝塚市では、昭和33年に中出農園の創業者が初めて栽培を始めましたが、難しいと言われる「水なす」栽培にあって、本来の美味しい「水なす」ができる栄養豊富な砂地ベースの土壌で栽培されてきました。

昔は農作業中にこの「水なす」で喉を潤したという言い伝えも残されている『泉州水なす』は、搾ると水がしたたるほど水分を多く含んでいるみずみずしいなすで、皮が薄く、アクが少ない上に果肉にはほのかな甘みがあるのが特徴です。大阪が全国に誇るこの「水なす」は、元々は淡い赤紫色がかった巾着型をしていましたが、改良が重ねられ、現在のような美しい紺色や群青色に、そして一般的ななすに比べ丸みを帯びた形に変わりました。

今回、訪ねた中出農園は、二代目が農園の基盤を作り、現在は引き継いだ三代目の兄・庸介さんが「水なす」の栽培、弟・達也さんが「水なす漬け」と兄弟で取り組まれていますが、3月から9月の旬の時期には家族総出で休みなく作業されるといいます。現在はビニールハウスで栽培されていますが、天候や状況に応じて温度と水分の管理、調整が図られているほか、味を左右する土壌のバランスが崩れないよう肥料の調合も徹底されています。

「ゆでなす」や「マーボーなす」といったなすを使った定番や「肉巻き」に「なすと大豆の炊き込みご飯」といった料理もさることながら、「水なす」本来の甘みを最大限に生かすため、浅く糠漬けした「水なす漬」は、作り立てのぬか床を使うことで酸味と嫌な臭いをなくし、旨みとまろやかさがある、まるでフルーツのような漬物です。平成に入ったころから知名度が上がり、今ではなすが苦手な人や女性にも大人気といいます。
(取材:2015年3月24日)

泉州水なす

皮が薄く、アクが少ない上にほのかな甘みがある水分をたっぷりと含んだみずみずしい卵型のなす。

中出庸介さん

10年程前に三代目を継いだお兄さんの庸介さんが『泉州水なす』の栽培に取り組まれています。

弟の達也さん

弟の達也さんは、美味しく食べられるように素朴な味に仕上げた「水なす漬」を作られています。

水なす漬

浅く糠漬けした「水なす漬」は、酸味と嫌な臭いをなくし、旨みとまろやかさがあるフルーツのような漬物。

ビニールハウス

中出農園の「水なす」は徹底した温度・水分管理により全てビニールハウスで育てられています。



第17回「葉ごぼう」(香川県・高松市)

第17回「葉ごぼう」(香川県・高松市)

独特の爽やかな香りと歯触り
根から茎に葉も食べられる

『葉ごぼう』は、“春を呼ぶ野菜”と呼ばれ、古くから香川県の食卓では親しまれてきた「ふるさと野菜」ですが、その昔、中国から渡来し、平安時代には薬用として利用されていたといいます。現在ではピーク時より生産量は減産しているものの、10種類ほどの伝統野菜とともに地元では、「讃岐野菜」としてブランド化する動きもあります。食文化の変化で消費量が減少したり、生産者が高齢化しているという背景がありますが、認知度を高め、新たな地域資源として観光振興にも生かそうという取組みです。

『葉ごぼう』には、福井県の「越前白茎ゴボウ」や大阪府の「若ゴボウ」もありますが、その地域での流通量、栽培エリアや食文化としての日常性から総合的に考察すると香川県のものが追随を許さないといいます。葉はとても柔らかく、しなやかで細かい葉脈が隅々まで広がり、ひだが大きい『葉ごぼう』ですが、特に香川県産は、根も茎も繊維質が柔らかいといわれています。冬のうちに養分を蓄えることで、春の収穫時には繊維が柔らかくなり、味の良い葉ごぼうに育ちます。

今回、訪ねた『葉ごぼう』の生産者の吉田清志さんは、現在おひとりで露地栽培とハウス栽培で生産されています。9月下旬から種をまき、その後、新しい芽が出て育った2月上旬から4月上旬にかけて収穫されます。ハウスで栽培すると路地より生育も早く、その分収穫することが可能になります。土の中に根がしっかり張っているので、抜くのに手間がかかったり、傷つけないよう細心の注意を払いながら収穫されます。全て手作業で行われるため、ひとりではかなりの重労働になるといいます。

「ごぼう」といえば、茶色く細長い根のものが一般的ですが、『葉ごぼう』は、短い根に長い茎と大きな葉がついています。成長すると1m近くの大きさに育つキク科の2年草です。独特の爽やかな香りと特有のシャキシャキとした歯触りが特徴で、根と茎、少し苦みのある葉も食べることができる美味しい野菜です。食物繊維が多く、鉄分やカルシウムも含まれています。地元では、「天ぷら」や茎を短冊切りにして油揚げやシイタケと一緒に炒めた「煮物」、また、「ごまあえ」などにして食べられることが多いようです。
(取材:2015年2月20日)

葉ごぼう

普通の茶色で細長いごぼうと違い、短い根に長い茎と大きな葉がついている『葉ごぼう』。

吉田清志さん

『葉ごぼう』の増産に向け、来年はハウスを2棟増やす計画という生産者の吉田清志さん。

葉ごぼうハウス栽培

露地栽培に比べ生育も早く、天候にさほど左右されず早く収穫できるというハウス栽培。

葉ごぼうの天ぷら

地元では一般的な『葉ごぼう』の天ぷら。葉の部分は多少苦みがあるので、二度揚げにします。

葉ごぼう洗い

収穫された『葉ごぼう』は、集荷場に置かれた大きな樽の45度の熱湯で洗われます。



第16回「伊勢いも」(三重県・多気町)

第16回「伊勢いも」(三重県・多気町)

ごつい外見も餅のような粘り
栄養価が高く滋養強壮に効果

『伊勢いも』の歴史は、300年ほど前に北畠氏の家臣が大和国より種芋を持ち帰り栽培したのが始まりといわれますが、古文書によれば享保4年に「山の芋」の記述が残っていることから江戸時代中期から山芋として栽培されていたとみられます。主産地の名前から「津田芋」と呼ばれていた時期を経て、明治17年に「松阪芋」と改称し、明治33年に現在の『伊勢いも』と命名されました。平成19年に「美しいみえの伝統野菜」に選定されているほか、20年度からは、「みえの安心食材」の認定を受けています。

『伊勢いも』の生産地である多気町は、伊勢湾から続く平野部と大台山系との中間地に位置していますが、櫛田川と宮川というふたつの清流に挟まれているほか、温暖な気候に恵まれているため、さまざまな農産物が栽培されています。特に肥沃な土地でないと栽培が難しいといわれる『伊勢いも』にとっては、砂気が多く排水が良いため適しているといいます。最盛期の半分程度の栽培面積になっているといいますが、現在はおよそ25haで出荷量は70tほどになるといいます。

今回、訪ねた伊勢いも生産部会の部会長を務める園田祐一郎さんは、奥様とふたりで『伊勢いも』を生産されていますが、代々農業に携われてきた農家の三代目です。現在、部会には31戸の農家が所属しています。『伊勢いも』は、前年に収穫したものの中から親芋として3~4割残さなければならず、形の良いものを切り分けて種芋とし、栽培します。10月から11月末にかけて収穫されますが、掘り起しや泥払いなど、傷がつかないように殆どが手作業で行われるので手間もかかり、ご苦労も多いといいます。

黒くてゴツゴツした外見からは想像もつかないほど中は滑らかで真っ白な芋です。アクが少なく時間が経ってもその白さは変わることがありません。さらに、粘りの成分であるタンパク質の「ミューシン」を多く含んでいることもあり、粘りの強さは山芋類の中でもいちばんとされているほか、「畑のうなぎ」と呼ばれるほど豊富な栄養分があります。とろろ汁はもちろんのこと、刺身や汁物、鍋物、揚げ物などで食べても美味しいものがありますし、コクがある味わいや変色しにくいことから高級和菓子にも使われています。
(取材:2015年1月28日)

伊勢いも

外見は黒くてごつごつした『伊勢いも』ですが、中は想像もつかないほどなめらかで白い肌です。

園田祐一郎さん

産地の拡大に向けて尽力されている伊勢いも生産部会の部会長を務める園田祐一郎さん。

山内にんじんの畑

昨年収穫した場所に隣接する畑には、既に今年の種芋を植え付けるために山が盛られています。

白和え

箸で塊を持ち上げることができるほど粘りが強い『伊勢いも』の皮をむき、すりおろした「とろろいも」。

いぶりがっこ

とてもデリケートな『伊勢いも』は、傷つきにくいようにオガの中にくるまれて出荷されます。