第16回「伊勢いも」(三重県・多気町)

ごつい外見も餅のような粘り
栄養価が高く滋養強壮に効果

『伊勢いも』の歴史は、300年ほど前に北畠氏の家臣が大和国より種芋を持ち帰り栽培したのが始まりといわれますが、古文書によれば享保4年に「山の芋」の記述が残っていることから江戸時代中期から山芋として栽培されていたとみられます。主産地の名前から「津田芋」と呼ばれていた時期を経て、明治17年に「松阪芋」と改称し、明治33年に現在の『伊勢いも』と命名されました。平成19年に「美しいみえの伝統野菜」に選定されているほか、20年度からは、「みえの安心食材」の認定を受けています。

『伊勢いも』の生産地である多気町は、伊勢湾から続く平野部と大台山系との中間地に位置していますが、櫛田川と宮川というふたつの清流に挟まれているほか、温暖な気候に恵まれているため、さまざまな農産物が栽培されています。特に肥沃な土地でないと栽培が難しいといわれる『伊勢いも』にとっては、砂気が多く排水が良いため適しているといいます。最盛期の半分程度の栽培面積になっているといいますが、現在はおよそ25haで出荷量は70tほどになるといいます。

今回、訪ねた伊勢いも生産部会の部会長を務める園田祐一郎さんは、奥様とふたりで『伊勢いも』を生産されていますが、代々農業に携われてきた農家の三代目です。現在、部会には31戸の農家が所属しています。『伊勢いも』は、前年に収穫したものの中から親芋として3~4割残さなければならず、形の良いものを切り分けて種芋とし、栽培します。10月から11月末にかけて収穫されますが、掘り起しや泥払いなど、傷がつかないように殆どが手作業で行われるので手間もかかり、ご苦労も多いといいます。

黒くてゴツゴツした外見からは想像もつかないほど中は滑らかで真っ白な芋です。アクが少なく時間が経ってもその白さは変わることがありません。さらに、粘りの成分であるタンパク質の「ミューシン」を多く含んでいることもあり、粘りの強さは山芋類の中でもいちばんとされているほか、「畑のうなぎ」と呼ばれるほど豊富な栄養分があります。とろろ汁はもちろんのこと、刺身や汁物、鍋物、揚げ物などで食べても美味しいものがありますし、コクがある味わいや変色しにくいことから高級和菓子にも使われています。
(取材:2015年1月28日)

伊勢いも

外見は黒くてごつごつした『伊勢いも』ですが、中は想像もつかないほどなめらかで白い肌です。

園田祐一郎さん

産地の拡大に向けて尽力されている伊勢いも生産部会の部会長を務める園田祐一郎さん。

山内にんじんの畑

昨年収穫した場所に隣接する畑には、既に今年の種芋を植え付けるために山が盛られています。

白和え

箸で塊を持ち上げることができるほど粘りが強い『伊勢いも』の皮をむき、すりおろした「とろろいも」。

いぶりがっこ

とてもデリケートな『伊勢いも』は、傷つきにくいようにオガの中にくるまれて出荷されます。